自己保持回路とは、入力条件がONすると出力がONして、その後に入力条件がOFFしても出力がOFFし続ける(ONを保持する)ラダープログラムです。
出力のa接点を入力条件に並列に接続することにより「出力は自身のa接点によってONが保持される」ことが自己保持回路の名前の由来です。
自己保持回路を用いることにより「スイッチを1回押すと、ランプが点灯し続ける」回路を作ることができます。他にも「出力をONし続ける」場合によく使用されます。
この記事では、キーエンスKVシリーズで作成する自己保持回路のラダープログラム練習問題を3ヶ出題します。
キーエンスKVシリーズで作成する自己保持回路の解説とラダープログラム例については以下のページで解説しております。
【ラダープログラム回路】自己保持回路のラダープログラム例【キーエンスKV】以下の記事でも自己保持回路の練習問題を3ヶ出題しておりますので、宜しければご覧ください。
【ラダープログラム】自己保持回路の練習問題②【キーエンスKV】三菱電機FXシリーズ・オムロンCJシリーズの自己保持回路の練習問題は以下のページで解説しております。
【ラダープログラム】自己保持回路の練習問題①【三菱FX】 【ラダープログラム】自己保持回路の練習問題①【オムロンCJ】目次
1.【1問目】OFF条件を優先する自己保持回路
下記仕様を満たす自己保持回路のラダープログラムを作成してください。
スイッチ(R001)を押すと、ランプ(R500)は消灯する。
スイッチ(R000)と(R001)が双方押された場合は、スイッチ(R001)を優先してランプは消灯する。(点灯しない。)
『R000をON条件』『R001をOFF条件』とするR500の自己保持回路を作ります。
タイムチャート
タイムチャートは以下のようになります。
入力リレーR000がONすると出力リレーR500がONし続け、入力リレーR001がONするとR500はOFFします。
R000とR001が双方ONした場合、R001を優先してR500はOFFします。
タッチパネルの動作イメージ
タッチパネルの動作イメージは以下のようになります。
スイッチ(R000)を押すとランプ(R500)が点灯し続け、スイッチ(R001)を押すとランプ(R500)は消灯します。
スイッチ(R000)と(R001)が双方押された場合、スイッチ(R001)を優先してランプ(R500)は消灯します。
解答ラダープログラム
解答のラダープログラムは以下のようになります。
R000のa接点とR500のa接点を並列にしてR500のコイルをONさせます。スイッチ(R000)が押されることでR500はONして、そのままR500は自身のa接点によりONを保持します。R500がONするとランプ(R500)が点灯します。
R001のb接点を直列に接続することで、スイッチ(R001)が押されるとR500の自己保持がOFFしてランプ(R500)が消灯します。
2.【2問目】ON条件を優先する自己保持回路
下記仕様を満たす自己保持回路のラダープログラムを作成してください。
スイッチ(R001)を押すと、ランプ(R500)は消灯する。
スイッチ(R000)と(R001)が双方押された場合は、スイッチ(R000)を優先してランプは点灯する。(消灯しない。)
【1問目】では「OFF条件を優先」していましたが、今回は「ON条件を優先」します。【1問目】に対してラダープログラムの形を少し変更することで作成できます。
タイムチャート
タイムチャートは以下のようになります。
入力リレーR000がONすると出力リレーR500がONし続け、入力リレーR001がONするとR500はOFFします。
R000とR001が双方ONした場合、R000を優先してR500はONします。
タッチパネルの動作イメージ
タッチパネルの動作イメージは以下のようになります。
スイッチ(R000)を押すとランプ(R500)が点灯し続け、スイッチ(R001)を押すとランプ(R500)は消灯します。
スイッチ(R000)と(R001)が双方押された場合、スイッチ(R000)を優先してランプ(R500)は点灯します。
解答ラダープログラム
解答のラダープログラムは以下のようになります。
【1問目】に対して、R001のb接点の場所を変更しています。
このラダープログラムの場合、スイッチ(R000)と(R001)が同時に押された場合、R000のa接点を遮るものが無いためR500はONしてランプ(R500)が点灯します。
3.【3問目】順序がある自己保持回路
下記仕様を満たす自己保持回路のラダープログラムを作成してください。
スイッチ(R001)→スイッチ(R000)の順ではランプ(R500)は点灯しない。
スイッチ(R002)を押すと、ランプ(R500)は消灯する。
「スイッチ(R000)が押された」ことを記憶するリレーを用意して、そのリレーがONしているときにスイッチ(R001)を押すとランプ(R500)が点灯するラダープログラムを作成します。
タイムチャート
タイムチャートは以下のようになります。
入力リレーがR000 → R001の順にONすると出力リレーR500がONし続けます。R001 → R000の順ではR500はONしません。
入力リレーR002がONすると、R500はOFFします。
タッチパネルの動作イメージ
タッチパネルの動作イメージは以下のようになります。
スイッチを(R000) → (R001)の順に押すと、ランプ(R500)が点灯し続けます。逆の順ではランプ(R500)は点灯しません。
スイッチ(R002)を押すと、ランプ(R500)は消灯します。
解答ラダープログラム
解答のラダープログラムは以下のようになります。
R000をON条件とする内部補助リレーR1000の自己保持回路を作ります。内部補助リレーはプログラム上でのみ使用できるリレーです。
R1000は、スイッチ(R000)が押されてからスイッチ(R002)が押されるまでONし続けます。
R001がON条件とするR500の自己保持回路を作ります。この自己保持回路の条件に「R1000のa接点」を用いることでスイッチ(R001)が押されたとき、R1000がONしていなければランプ(R500)は点灯しないものになります。
R1000の自己保持回路の条件にR002のb接点を入れることで、スイッチ(R002)が押されるとR1000がOFFして、さらにR500もOFFします。
4. おわりに
キーエンスKVシリーズで作成する自己保持回路の練習問題を3ヶ出題しました。
【1問目】はアクチュエータ等の動作するものを「起動スイッチ・停止スイッチで制御する場合」、逆に【2問目】はアラーム(異常)発生を「発生条件・リセットスイッチで制御する場合」に使用されることが多いイメージです。
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最近ラダー回路の勉強を本格的に始めたものです。
いつも参考に見させていただいており、大変助かっています。
質問なのですが、例題ではスイッチの長押しを考慮せずに回路を組んだ場合で回答を作られているのでしょうか。
また、実際に現場で同じようなスイッチとランプの動かし方をする場合は、例題の回答とは別のスイッチを長押しした場合の動きを考慮した回路が必要になるのでしょうか。
まだわからないことばかりなので、ご教授いただけると幸いです。
返信が遅くなり申し訳ございません。
コメントありがとうございます。
あくまで私の主観ですが、例題①のようなOFFを優先する回路の場合、ON条件を立上り微分化するケースが多いです。
例題①の回路だと、ON条件とOFF条件が同時にONした場合は「OFF条件が優先されて出力はOFF」しますが、ON条件がONのままOFF条件がOFFすると
出力はONしてしまいます。
仮に出力がモータやコンベアのような「動作を伴うアクチュエータ」の場合、起動スイッチを長押しし続けた状態で、停止スイッチを押し→放すと、
停止スイッチを放した瞬間に出力は動作を再開することになります。
起動スイッチ(ON条件)を立上り微分化することで、再開することは無くなります。
ただ、上記の再開しない制御方法が必ずしも正しいとは限りませんので、出力対象と、制御する装置の条件を考慮して使い分けて頂ければと思います。