キーエンスKVシリーズにおける「マスターコントロール」命令とは、ラダープログラムの母線をON/OFFすることにより、指定した範囲内の出力を一斉にON/OFFするラダープログラム命令です。
マスターコントロール命令を用いることにより、共通の実行条件を1ヶにまとめ、各々の回路に都度入れる手間を省くことができます。
この記事では、キーエンスKVシリーズにおけるマスターコントロール命令の指令方法とラダープログラム例について解説します。
目次
1. マスターコントロール命令の指令方法
マスターコントロール命令を使用する場合、MC命令とMCR命令の2ヶをセットで指令する必要があります。
MC | :マスターコントロール命令 |
MCR | :マスターコントロールリセット命令 |
MCはマスターコントロール(Master control)の略です。そのままですね…
こちら↓がMC命令とMCR命令を使用したラダープログラム例です。
このラダープログラムは、MC命令とMCR命令の間にR501とR502のコイルが挟まれています。この挟まれている部分がマスターコントロールの対象となります。
MC命令の実行条件であるR000がONのとき「R001がONするとR501がON」「R002がONするとR502がON」します。
R000がOFFのとき「R001がONしてもR501はONしない」「R002がONしてもR502はONしない」動作になります。
先ほどのラダープログラムと同じ動作をする回路を、MC・MCR命令を使用せずに作成すると以下のようになります。
R000のa接点がR501とR502の回路に共通の入力条件として入っています。マスターコントロール命令は今回のR000のような「共通の入力条件を各々の回路に入れることなくMC・MCR命令の1セットで済ませることができる」命令です。
今回はマスターコントロールの対象がR501とR502の2ヶの回路であったため、わざわざマスターコントロール命令を使用する利点はあまりありません。マスターコントロール命令は対象の回路が増えた場合に「各々の回路に入れる手間を省く」利点があります。
MC:マスターコントロール命令
マスターコントロール命令は”MC”と指令します。
こちらがMC命令を使用したラダープログラム例です。(先ほどのラダープログラム1行目です。)
MC命令の実行条件には、マスターコントロールの対象をON/OFFさせるための条件を指定します。↑のラダープログラムではR000がONしているときにマスターコントロール命令が実行されます。
MC命令はマスターコントロールの対象を開始する位置に指令します。
MC命令の中にはデバイスを指定する必要はありません。
マスターコントロール命令をKV STUDIOの回路上に挿入するには「MC」と回路上で入力します。
MCR:マスターコントロールリセット命令
マスターコントロールリセット命令は”MCR”と指令します。
こちらがMC命令を使用したラダープログラム例です。(先ほどのラダープログラム4行目です。)
MCR命令は、マスターコントロールの対象を終了する位置に指令します。MC命令とMCR命令に囲まれた範囲がマスターコントロールの対象となります。
MCR命令には実行条件を指定する必要はありません。
マスターコントロールリセット命令をKV STUDIOの回路上に挿入するには「MCR」と回路上で入力します。
2.【例題】マスターコントロールで出力を一斉にOFFする
下記仕様のラダープログラムをマスターコントロール(MC・MCR)命令を用いて作成します。
スイッチ(R001)を押すたび、ランプ(R501)の点灯/消灯が切り替わる。
スイッチ(R002)を押すたび、ランプ(R502)の点灯/消灯が切り替わる。
スイッチ(R003)を押すと、ランプはすべて消灯する。
スイッチを押すたびにランプのON/OFFを切り替えます。このような回路をオルタネイト回路やワンスイッチ回路と呼びます。
まず各々のオルタネイト回路を作り、MC命令とMCR命令で囲みます。
キーエンスKVシリーズで作成するオルタネイト回路については以下のページで解説しております。
【ノウハウ初級】オルタネイト回路のラダープログラム例【キーエンスKV】タッチパネルの動作イメージ
タッチパネルの動作イメージは以下のようになります。
スイッチ(R000)~(R002)を押すたび、ランプ(R500)~(R502)の点灯/消灯が切り替わります。
スイッチ(R003)を押すとランプは一斉に消灯します。スイッチ(R503)が押されている状態では、いずれのスイッチを押してもランプは点灯しません。
ラダープログラム
ラダープログラムは以下のようになります。
R000~R002はオルタネイト回路が組まれており、各々のスイッチを押すたびに出力リレーR500~R502のON/OFFが切り替わります。
このオルタネイト回路をMC命令とMCR命令で囲むことで、R500~R502をマスターコントロールの対象になります。
MC命令の実行条件はR003のb接点のため、スイッチ(R003)を押していない状態でマスターコントロール命令が実行されます。
スイッチ(R003)を押すことにより、R003のb接点がOFFしてマスターコントロールの対象が一斉にOFFします。
↑のラダープログラムを、マスターコントロール命令を使用せずに作成すると以下のようになります。
このラダープログラムは、先ほどのマスターコントロール命令を用いたものと同じ動作をします。
このように、マスターコントロール命令はマスターコントロールの対象の大元をON/OFFするイメージの命令です。
3. おわりに
キーエンスKVシリーズにおけるマスターコントロール(MC・MCR)命令について解説しました。
マスターコントロール命令は「マスコン」とよく略されて呼ばれます。私は過去に「マスタコ」と呼んでいた方を見たことがあります。
- マスタコントロール命令は”共通の入力条件”をまとめることが出来る。
- MC命令とMCR命令でマスターコントロールの対象範囲を囲む。
- MCR命令には入力条件は不要。
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