PLC(Programmable Logic Controller:プログラマブル・ロジック・コントローラ)とは、工場などの産業設備を自動制御するための装置です。
ざっくり言うと「設備の頭脳となる産業用コンピュータ」であり、センサ入力の監視からモータ・シリンダなどの出力制御まで、装置の動作を正確にコントロールします。
近年では、生産ラインのトレーサビリティ対応、上位PC・MESとのデータ連携、Ethernet機器との通信など、情報処理やネットワーク機能を備えた高度なPLCも普及し、設備のIoT化にも広く利用されています。
この記事では、PLCとは?からPLCで使用されるプログラム言語の特徴、メリット/デメリット、国内主要メーカの違いなどを技術者視点で解説します。
目次
1. PLCとは? (基本概要)
PLC(Programmable Logic Controller:プログラマブル・ロジック・コントローラ)とは、工場の自動機・製造ライン・検査装置などの産業設備を自動で制御するための装置です。センサの入力を読み取り、内部のプログラムに従ってモータや電磁弁などのアクチュエータを制御し、装置全体の動作を正確に管理します。
身近な例としては、商業施設の空調設備や立体駐車場のゲート制御、物流倉庫の搬送ラインなどが挙げられ、街中のさまざまな装置でPLCが利用されています。
PLCは、現場の過酷な環境(ノイズ・温度変化・振動など)でも安定動作するよう設計されており、一般的なパソコンやマイコンとは異なる高い信頼性と耐環境性を備えています。
また、ソフトウェアで制御ロジックを記述するため、配線を大きく変更することなく動作仕様の変更が可能です。装置の改造や生産仕様の変更に柔軟に対応できる点は、生産現場でも非常に重視されています。
近年のPLCは、単に機器を制御するだけでなく、上位PCやMESとの通信、トレーサビリティ情報の収集、Ethernet機器との連携など、情報処理装置としての役割も強まっています。設備のIoT化・スマートファクトリー化を支える中心的な存在と言えます。
2. PLCの基本構成 (入力/処理/出力)
PLCは大きく「入力(Input)」「処理(CPU)」「出力(Output)」の3つの要素で構成されます。これらが連携することで、設備の状態を監視し必要なタイミングで機器を動作させることができます。
2-1. 入力 (Input):センサやスイッチの状態を読み取る部分
入力部は、設備に取り付けられた各種センサ・スイッチなど入力機器からの信号を読み取る役割を持ちます。
代表的な入力機器は以下の通りです。
- 近接センサ
- 光電センサ
- リミットスイッチ
- 押しボタンスイッチ
- フォトセンサ
- エンコーダ(回転量や位置検出)
- アナログセンサ(温度や圧力)
これらのON/OFF信号やアナログ値がPLCに取り込まれ、装置の”現在の状態”としてCPUに渡されます。
2-2. 処理 (CPU):プログラムに従って演算を行う部分
CPUは、PLCの中枢となる部分で取り込んだ入力信号をもとにラダープログラムやST言語などで書かれた制御プログラムを実行します。
主な役割は以下の通りです。
- 入力の状態を読み取る
- プログラムに従って条件分岐・演算処理を行う
- 必要な出力を決定する
- 内部デバイス(タイマ・カウンタ・レジスタ)の管理
- 通信処理(Ethernet・シリアル・フィールドネットワークなど)
例えば「センサがONしたらモータを動かす」「カウンタが一定値に達したらシリンダを戻す」「上位PCからの指令値に応じて速度を調整する」といったロジックがCPUで処理されます。
2-3. 出力 (Output):モータや電磁弁に信号を出力する
出力部は、CPUの判断結果に基づき、モータ・シリンダ・ランプ・警報ブザーなど機器機器に対して信号を出力する役割を持ちます。
代表的な出力機器は以下の通りです。
- 電磁弁(シリンダ伸縮やブローON/OFF)
- リレーや電磁接触器(開閉器)
- パイロットランプ
- ブザー
- インバータ
- サーボモータ(アンプへ位置や速度制御)
PLCは、これらの機器に対して「ON」「OFF」「アナログ値」などの信号を出力し、設備を所定のシーケンス通りに動かします。
2-4. スキャン動作:スキャンタイムの概念
PLCは以下の処理を一定周期で繰り返すことで設備を制御します。
センサ・スイッチなど入力機器からの信号を読み取る
PLCに書き込まれたプログラムを実行する
モータ・シリンダなど出力機器に信号を出力する
この一連の流れをスキャン(Scan)と呼び、1周(1サイクル)にかかる時間をスキャンタイムと呼びます。一般的には数ミリ秒〜数十ミリ秒程度で、PLCは高速にこのサイクルを繰り返すことでリアルタイム制御を実現しています。
3. PLCで使用するプログラム言語 (IEC61131-3)
PLCで使用されるプログラム言語は、国際規格であるIEC61131-3によって定義されています。この規格では、PLCの制御ロジックを記述するための複数の言語体系が定められており、用途や現場の運用方法に合わせて使い分けられています。
主要な言語は以下の通りです。
3-1. ラダー (LD:Ladder Diagram):日本で最も一般的な言語
ラダーは、電気回路のリレーシーケンスに近い構造を持つ図式言語で、日本国内で最も広く使われているPLCプログラミング言語です。
- 電気図記号に類似しており可視化しやすい
- 工場の保全担当者・電気設計者に馴染みが深い
- ON/OFF制御やシーケンス制御に向いている
- リレー回路の知識があると習得が早い
三菱電機、キーエンス、オムロンなど主要メーカのPLCではラダーが基礎となっており、新人教育でも最初に扱われることが多い言語です。
3-2. ST (Structured Text):数値を扱う複雑な演算処理に強いテキスト言語
STは、C言語やPascalに近い構文を持つテキストベースの高級言語です。複雑な数値演算や文字列処理で力を発揮します。
- 条件分岐(IF文やCASE文)、繰り返し(FOR文やWHILE文)などの構文が使える
- 複雑な演算処理や文字列処理に向いている
- ラダーより流用性の高いプログラムが書ける(他メーカでもコピペで流用できることが多い)
- キーエンスKV-Xや三菱電機iQ-Rなど新しいPLCで採用が広がっている
装置の高度化やデータ処理の増加によりSTの利用が急速に増えています。また、近年は情報系教育でC言語やPythonを学ぶ学生が増えていることから、テキストベースのSTは若手技術者との相性が良い言語です。
3-3. FBD (Function Block Diagram):ブロックの組み合わせで制御を構築
FBDは、関数ブロックを線でつなぎ合わせることで制御ロジックを構築する方式です。
- 独立した処理単位(FB)を積み木のように組み合わせられる
- 連続制御、PID制御、アナログ処理に向いている
- ビジュアル的に理解しやすい
- プロセス制御で多く利用されている
PID制御・フィルタ処理・アナログ演算などのプロセス制御系の処理で多く利用されています。欧州系PLC(Siemens、Beckhoffなど)ではFBDが主流です。
3-4. SFC (Sequential Function Chart):工程の流れを段階で表現
SFCは、制御工程をステップごとに分割し、その遷移条件を定義する図式言語です。
- 工程の状態遷移(ステップ遷移)を分かりやすく表したい場合に便利
- 各ステップの動作と遷移条件が明確
- シーケンス(順序制御)の可視化に適している
- フローチャートとの親和性が高い
工程の複雑な流れを「ステップ」として把握しやすくできます。トランジションといった専用命令を用いる必要があります。
3-5. IL (Instruction List):現在は廃止方向の低級言語
IL(命令リスト)はアセンブラのような低級言語で、現在はIEC61131-3の標準から除外されつつあります。
- 古いPLCでは採用されていることもある
- 現行PLCではほとんど使われない
保守やリプレイスで旧装置を扱う場合などに限られる言語です。
4. PLCのメリット
PLCは、工場の自動化設備を安定して動作させるために最適化された制御装置です。一般的なパソコンやマイコンにはない特徴を持っており、生産現場で広く採用されている理由がいくつもあります。
4-1. ノイズ・振動・温度変化に強い高い信頼性
工場は制御盤内のノイズ、溶接機やインバータによる高調波、温度変動、振動など、電子機器にとって厳しい環境です。PLCはこうした環境でも24時間365日安心して動作できるよう設計されています。
- 瞬停対策
- ノイズ耐性(EMC)
- 温度範囲の広さ
- 耐振動構造
これらの仕様が、量産設備・長時間稼働設備においてPLCが選ばれる大きな理由です。
4-2. 動作変更が容易にできる (柔軟なソフト変更)
リレー回路と違い、PLCはプログラムで制御ロジックを決めるため、配線変更を伴わずに機能追加や動作変更を行えるケースが多いです。
- 制御条件の変更
- タイマ値の調整
- 一連動作のシーケンス追加
設備の立ち上げや改造作業の効率が大きく向上します。
4-3. 保守性が高く故障対応が容易
PLCは長期供給・長期保守が前提の工業製品であり、故障時も迅速に復旧できます。
- 故障箇所がユニット単位で分かる
- 予備品を交換するだけで修理可能
- メーカサポートが手厚い
- モニタ機能で原因特定が容易
トラブル時の装置ダウンタイムを最小限に抑えるうえで重要な要素になります。
4-4. ネットワーク連携や情報処理にも強い (近年の機能向上)
近年のPLCは、単純なシーケンス制御だけでなく、上位システムとのデータ連携にも対応しているものが多くあります。
- MES・上位PCとの通信
- EtherNet/IP・PROFINET・EtherCATなどのフィールドネットワーク
- シリアル通信(RS-232C・485)
- ドラレコ(ログの保存)
装置のIoT化・スマートファクトリー化を進める上でも重要な役割を担っています。
4-5. 日本国内での技術者層が厚い (教育・保守のしやすさ)
日本では以前からラダー文化が強くPLCが多く普及しているため、現場の技術者が学びやすくトラブル時の対応力も高いです。
- 教育資料・実例が豊富
- メーカ研修・サポート体制が充実
- 保全担当者でもラダーを理解しやすい
- 若手はSTで柔軟な開発が可能
この「扱える技術者が多い」点は、生産設備にPLCが採用され続ける大きな理由のひとつです。
5. PLCのデメリット
PLCは工場の制御に最適化された非常に優れた装置ですが、万能ではありません。用途や環境によっては、他の制御方式(産業PC、マイコン、FPGAなど)が適している場合もあります。ここでは、PLCを導入する際に知っておくべき主なデメリットを解説します。
5-1. 本体価格が高い (導入コストが大きい)
PLCは産業用途向けに高信頼化されているため、同等の処理をマイコンや小型コンピュータで行う場合と比べてコストが高めです。
- PLC本体
- 拡張I/Oモジュール
- 通信ユニット
- ソフトウェアライセンス
- プログラム製作の人件費
これらを揃えると、装置1台あたり数万円〜数百万円規模になることも珍しくありません。
5-2. メーカ間の互換性が低い
PLCの仕様やコマンドは、メーカによって大きく異なります。
- ラダー命令の名称や動作
- 内部デバイスの扱い方
- 通信ライブラリ
- プログラム構造
近年では国内メーカでもIEC61131-3に準拠したPLCが新たに販売されていますが、メーカが変わるとプログラムはほぼ作り直しになるケースも多くあります。
5-3. 専用の開発ソフトが必要 (学習コストが掛かる)
PLCプログラムは各メーカの専用ツールで作成する必要があります。
- GX Works2、GX Works3(三菱電機)
- KV STUDIO(キーエンス)
- CX Programmer、Sysmac Studio(オムロン) など
PLCメーカが変わると、ツールの使い方から覚える必要があります。また、開発ツールは基本的に有料です。
5-4. 仕様変更が容易な反面、プログラム品質によっては不具合が生じやすい
PLCはソフト変更が容易であるというメリットの裏返しとして、
- 機能追加を重ねてロジックが複雑化
- コメントや変数の乱れ
- 過去資産の流用による予期しない動作
といった問題が発生しやすいというデメリットもあります。最終的にはプログラム設計者のスキルに依存する部分が大きく、保守性を意識した作り込みが重要となります。
5-5. 数量の多い小型機器ではマイコンにコストで負ける
PLCは高信頼性が求められる生産設備に最適ですが、以下のような小型機器には不向きです。
- 家電
- ポータブル装置
- 小型組込み機器
こうした装置ではマイコンの方が圧倒的に安価で、PLCを使うメリットが薄くなります。
6. 代表的なPLCメーカ (国内)
日本国内では、PLCが古くから生産設備の標準制御装置として普及しており、複数のメーカが独自の製品シリーズを展開しています。ここでは、現場で特に利用されることの多い主要メーカとその特徴を紹介します。
6-1. 三菱電機
三菱電機は国内でもシェアがトップクラスで「MELSEC(メルセック)」は日本で最も普及しているPLCシリーズです。

代表的なシリーズは以下の通りです。
- MELSEC iQ-Rシリーズ:大型設備向けの高性能モデル
- MELSEC iQ-Fシリーズ (FX5UやFX5UC等):小〜中規模装置向けEthernet付きパッケージPLC
三菱電機が開発した産業用ネットワーク規格であるCC-LinkやCC-Link IEなど通信機能が強力です。また、ベテラン層から若手層までPLCソフト設計者が多いことも特徴です。
6-2. キーエンス
キーエンスのPLC「KVシリーズ」は、開発ツールであるKV STUDIOの使いやすさと処理速度(スキャンタイム)で評価が高いメーカです。

代表的なシリーズは以下の通りです。
- KV-8000:高速処理モデル・大型装置向け
- KV-X300、X500:最新の高速・高機能モデル
- KV Nano:小規模装置向けパッケージPLC
電話窓口を含めたメーカサポートが充実しており現場で選ばれやすいメーカです。KV-8000やKV-Xでは任意のタイミング(トリガ)前後のPLCのデバイス値やイベント等の運転記録を保存するドライブレコーダ機能が実装されており、トラブル原因を解析する際に広く使用されています。
6-3. オムロン
オムロンはモーション制御・ロボット・センサ技術に強みがあります。PLCは「Sysmac」ブランドで展開しており、特に設備全体の統合制御に向いています。

代表的なシリーズは以下の通りです。
- NJ、NXシリーズ:モーション制御対応の高機能PLC
- CS、CP、CJシリーズ:小〜中規模装置向け
NJ、NXシリーズは、論理制御・モーション制御・I/O制御・安全制御・通信(EtherCATやEtherNet/IPなど)を一括でカバーする“オールインワンコントローラ”として設計されています。
6-4. 富士電機
富士電機は、電力設備やプラント系で使用されるPLCに強みを持つメーカです。

代表的なシリーズは以下の通りです。
- MICREX-SXシリーズ
一般の自動機よりも、インフラ設備・産業設備(焼却炉・水処理施設など)での採用が目立ちます。
7. おわりに
PLCとは?からPLCで使用されるプログラム言語の特徴、メリット/デメリット、国内主要メーカの違いなどを解説しました。
PLC(Programmable Logic Controller)は、工場の自動機や製造ラインを安定して制御するために欠かせない産業用コンピュータです。入力信号の監視、プログラムによる制御ロジックの実行、モータ・電磁弁などの出力制御を高速に繰り返し、設備全体を安全かつ確実に動かします。
PLCには、
- ノイズ・温度変化・振動に強い高い信頼性
- 配線を大きく変更せずに仕様変更できる柔軟性
- モジュール構成による拡張性
- 長期保守・トラブル対応のしやすさ
といった多くのメリットがあります。一方で、マイコンや産業PCと比較するとコスト面や演算能力では劣る部分もあり、用途に応じた選択が重要です。
制御言語もラダー、ST、FBD、SFCなど複数用意されており、設備の規模やロジックの複雑さに応じて使い分けが行われています。近年では、上位システムやネットワークとの連携も進み、IoTやデータ活用の中心装置としての役割も拡大しています。
PLCの仕組みや役割を理解することは、装置の設計・改善・トラブル対応において非常に重要です。制御技術の基礎を押さえることで、より信頼性の高い装置設計が可能になり、機械設備の応用力も一段と向上します。


